債権譲渡と売掛債権担保融資(ABL)とは?仕組み・違い・活用法を解説
「銀行融資は厳しそう…」「借入以外で資金を確保できないかな?」と、資金調達にお悩みの方も多いでしょう。売掛金の入金までに時間がかかる業種では、資金繰りの不安を抱えるケースも少なくありません。
そのような悩みを解決する方法のひとつが、債権譲渡です。債権譲渡とは、売掛金などの受取権利を第三者に譲り渡すことで、実際の入金を待たずに資金を調達する手段です。
本記事では、債権譲渡の仕組みや手続き、ファクタリングなどの類似手法との違いをわかりやすく解説します。活用時の注意点も説明しているため、参考にしてください。
目次
債権譲渡の基礎知識
債権譲渡の基礎知識として、以下の2つを解説します。
- 債権譲渡とは支払いを受け取る権利を第三者に譲ること
- 譲渡対象となる債権の種類
順番に確認していきましょう。
債権譲渡とは支払いを受け取る権利を第三者に譲ること
債権譲渡は、債権者が保有する債権を第三者に譲り渡す取引です。民法第466条では「債権は譲渡することができる」と規定されており、原則として債権譲渡が認められています。
債権とは、取引先などに対して将来金銭やサービスの提供を請求できる権利です。実務上では、売掛金などの金銭債権を第三者に譲渡することで、資金繰りのための現金化手段として活用されています。
なお、民法上では契約により「譲渡を禁止する特約(譲渡制限特約)」が付された債権も存在します。以前はこのような債権は譲渡できないとされていましたが、2020年4月1日の債権法の改正により、一定の条件下で譲渡が可能となりました。
譲渡対象となる債権の種類
法律で譲渡が禁止されていない限り、原則としてさまざまな金銭債権が債権譲渡の対象となります。
代表的な債権のひとつである売掛債権は「A社がB社に商品を納品し、翌月末に代金を受け取る」契約を結んでいる場合に発生する、代金請求の権利をです。このような債権を金融機関やファクタリング会社に譲渡すれば、支払期日前でも資金を確保できます。
売掛債権のほか、以下のような債権も譲渡の対象です。
- 請負契約に基づく請負代金債権
- 資金の貸付に伴う貸付金債権
- 不動産の賃貸契約に基づく賃料債権
譲渡対象となる債権にはさまざまな種類があるため、自社が保有する債権が該当するか事前に確認しておくことが重要です。
債権譲渡と類似手法の違い
債権譲渡と混同されやすい資金調達手段として、ファクタリング・ABL・動産担保融資の3つが挙げられます。
ビジネスローン | 銀行融資 | カードローン | |
---|---|---|---|
調達方法 | 売掛債権の売却(譲渡)で資金化 | 資金化 売掛債権や在庫などを 担保に借り入れ |
動産(在庫・機械など)を 担保に借り入れ |
売却・ 担保対象 |
売掛債権のみ | 売掛債権、在庫、設備など | 動産(在庫・原材料・設備など)に特化 |
所有権 の扱い |
債権の所有権がファクタリング会社に移転 | 担保資産の所有権は企業に残る | 担保資産の所有権は企業に残る |
返済義務 | なし (売却による資金調達) |
あり (融資のため返済義務が発生) |
あり(融資のため返済義務が発生) |
自社の状況によって、適した手法は異なります。手法ごとの違いや特徴を理解し、自社にとってより良い資金調達方法を選びましょう。
ファクタリングとの違い
ファクタリングは売掛債権をファクタリング会社に売却し、支払期日前に現金化する資金調達手段です。債務者の同意を得る三社間型や、通知を行わない二社間型などがあり、手続きの簡便さが特徴です。
一方の債権譲渡は、債権そのものを第三者に移転する制度であり、契約書の締結や債務者への通知などの手続きが必要です。資金調達に限らず、相続やM&Aなど幅広い目的で活用されます。
このように、ファクタリングは資金調達に特化しているのに対し、債権譲渡はより幅広い目的で利用されています。
ファクタリングについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
ファクタリングとは?仕組みや種類・メリット・デメリットなどを解説
ABLとの違い
ABL(Asset Based Lending)は、売掛債権や在庫、機械設備などを担保にして金融機関から融資を受ける資金調達手法です。
債権譲渡が債権を売却して資金を得るのに対し、ABLは資産を担保に借り入れを行う仕組みで、返済義務が発生します。担保にした資産の所有権は、企業に残るのが一般的です。
債権譲渡は「権利を売る」、ABLは「担保に借りる」という違いがあり、資金調達のスピードや審査基準にも差があります。
ABLに詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
ファクタリングとABLの違いとは?メリットとデメリット、適している事業者の特徴を解説
動産担保融資との違い
動産担保融資は、在庫や機械設備などの動産を担保に資金を借りる資金調達手法です。債権譲渡が売掛債権を売却して資金化するのに対し、動産担保融資は資産を保有したまま借り入れを行います。
動産担保融資はABLに分類される手法のひとつであり、なかでも有形の動産に特化している点が特徴です。
債権譲渡では債権の所有権が譲受人に移るのに対し、動産担保融資では企業が所有権を保持したまま返済義務を負います。また、動産の実物確認や価値評価が必要となるため、債権譲渡より審査や手続きに時間がかかる傾向があります。
債権譲渡のメリットとデメリット
債権譲渡を行うメリットとデメリットを、それぞれ解説します。
メリット
債権譲渡には、譲渡人・譲受人の双方にとって複数のメリットがあります。
譲渡人 | 譲受人 |
---|---|
・売掛金などの債権を早期に現金化し、資金を調達できる
・帳簿上の債権が消えるため、債務の整理につながり、財務体質の改善につなげられる ・譲渡した債権を担保に新たな融資を受けられる場合がある |
・債務不履行のリスクを抑えられる
・債権の額面金額と譲渡価格との差額により利益を得られる可能性がある ・信用調査済み債券であれば、回収不能リスクを低減できる |
このように、債権譲渡は譲渡人と譲受人の双方にとって資金流動性や収益性を高める手段です。
デメリット
債権譲渡のデメリットを、以下の表にまとめました。
譲渡人 | 譲受人 |
---|---|
・債権の譲渡価格が一般的に額面より低くなる
・譲渡したことが取引先に知られると「資金繰りに不安を抱えている」と受け取られ、信用を損なう可能性がある |
・債務者が経営悪化などの状況に見舞われると、債権が回収不能となる場合がある
・入金までの間は手元資金が一時的になくなる |
債権譲渡を活用する際は、双方にとってのリスクを見極めたうえで判断することが重要です。
債権譲渡の基本的な手続きの流れ
債権譲渡の基本的な流れを、以下の3ステップで解説します。
- 債権譲渡契約を締結する
- 債務者への対抗要件を確保する
- 第三者への対抗要件を確保する
資金調達手段として債権譲渡を検討している方は、参考にしてください。
Step1:債権譲渡契約を締結する
まずは、譲渡人と譲受人の間で債権譲渡契約を締結します。契約書には、以下の条件を明確に記載してください。
- 譲渡対象の債権
- 譲渡金額
- 支払い方法
- 実行日など
債権の特定には、取引先名・請求書番号・取引内容などを用いることが一般的です。例えば「C社に対する、請求書番号〇〇〇に基づく300万円の売掛債権を、ファクタリング会社D社に270万円で譲渡する」と、一義的に判別できるよう記載します。
また、譲渡する債権が有効かつ譲渡可能であることを保証する「表明保証条項」も契約に盛り込まれることが通常です。譲渡人が債権の真実性に関する責任を譲渡人が明示することで、譲受人のリスクを軽減します。
Step2:債務者への対抗要件を確保する
債権譲渡を成立させた時点では、譲受人が債務者から確実に支払いを受けられるとは限りません。債務者に対して新たな債権者としての立場を主張するには、「対抗要件」を備える必要があります。
対抗要件とは、債務者に対して債権が譲渡された事実を正式に通知するか、債務者から承諾を得ることです。債務者が譲渡された事実を知らないまま譲受人から請求を受けると、状況を把握できず混乱し、譲渡人との関係が悪化する原因になりかねません。
通知は、後の紛争を防ぐためにも内容証明郵便など証拠が残る方法で行うことが望ましいです。対抗要件を備えておけば、譲受人は法的に確実な立場で債権の回収できます。
Step3:第三者への対抗要件を確保する
債権譲渡は当事者間の合意のみで成立します。ただし、同じ債権が複数の相手に譲渡される「二重譲渡」や、他の債権者による差し押さえといったトラブルを防ぐには、第三者に対する対抗要件を備える必要があります。
対抗要件としては、債権譲渡登記を行う、または確定日付のある証書による通知や承諾の取得が有効です。これらの手続きを先に行った譲受人が、第三者に対して優先的に債権者としての立場を主張できます。
第三者への対抗要件を備えることで、債権の権利関係を明確にし、予期せぬトラブルを防止します。
債権譲渡を活用する際の注意点
債権譲渡を活用する際は、以下の2点に注意しましょう。
- 債権が二重譲渡されていないか
- 債権譲渡禁止特約がないか
債権譲渡を活用したために、思わぬトラブルが生じる場合があります。トラブルを未然に防ぐためにも、注意点を把握しておきましょう。
注意点1:債権が二重譲渡されていないか
同じ債権が複数の相手に譲渡される「二重譲渡」が生じないように、気を付けましょう。二重譲渡が発生すると、どちらが正当な債権者かを巡って争いが生じ、債権の回収が困難になる恐れがあります。
原則として、法的には第三者への対抗要件を先に備えた譲受人が優先されます。そのため、譲渡契約の前に他者への譲渡がないかを事前に確認しておくことが重要です。
譲受人は登記情報を確認したり、譲渡人から過去の譲渡履歴を聞き取ったりするなど、慎重にチェックする必要があります。一方、譲渡人にも自社の債権を適切に管理し、誤って二重譲渡を起こさないよう徹底する責任が求められます。
注意点2:債権譲渡禁止特約がないか
債権を譲渡する前に、契約書に債権譲渡禁止特約が定められていないかを確認することも重要です。債権譲渡禁止特約がある場合は、債権譲渡が制限され、誤って第三者に譲渡すると契約違反とみなされるリスクがあります。
そのため、契約書の条文を精査し、債権譲渡が認められる内容かを丁寧に確認しましょう。確認を怠り、特約に違反して譲渡すると、債務者からの支払い拒否や契約解除といった不利益を被る恐れがあります。
譲渡人・譲受人の双方は、契約書に債権譲渡禁止特約が含まれていないか初期段階で確認し、譲渡の可否を把握しておきましょう。
個人債権の買取と債権譲渡
債権譲渡は法人に限らず、個人事業主でも利用できる資金調達手段です。請求書を現金化する「ファクタリング」は、個人でも活用しやすい方法のひとつと言えます。
ファクタリングの主な審査対象は、債務者である取引先企業の信用情報です。個人事業主の信用よりも、取引先の支払い能力や実績が重視される点が特徴です。
近年では、個人事業主向けのファクタリングサービスも増えており、法人向けとは異なる契約形態や審査基準が設けられていることもあります。利用を検討する際は、契約条件や手数料体系を確認し、信頼できる事業者を選びましょう。
債権譲渡の活用事例
債権譲渡は、売掛金の回収を待たずに資金を確保できる有効な手段であり、なかでも資金繰りが逼迫しやすい業種で活用されています。
例えば、建設業では工事の完了から代金の入金までに数カ月を要する場合が多く、その間にも人件費や資材費などの支払いが発生します。工事が完了しても売上が入金されるまでの間に資金が不足する場合、未回収の請負代金債権を譲渡することで、次の案件に必要な費用を早期に確保できます。
このように、借入に頼らず資金を調達できる点も、債権譲渡の大きな利点と言えるでしょう。
ファクタリングをはじめとする債権譲渡は、建設業に限らず、売上と入金のタイミングにズレが生じやすい業種において、柔軟な資金確保策として有効です。
建設業とファクタリングの関係を詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
建設業がファクタリングを利用するにあたり会社を選ぶポイント3つ
債権譲渡は資金調達の選択肢になる
債権譲渡は、売掛債権を第三者に譲渡することで、入金を待たずに資金を確保できる資金調達手段です。なかでもファクタリングは、取引先の信用力を元に審査されるため、銀行融資よりもスピーディーに資金化しやすい点が特徴です。
建設業をはじめ、請求から入金までに時間がかかる業種では、資金繰りが一時的に逼迫するケースも少なくありません。ファクタリングを活用すれば、早期に現金を確保でき、人件費や資材費などの支払いにも柔軟に対応できます。
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